創作小説サークル「森の箱庭屋」の情報を掲載
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仕様:A6版32ページ
価格:100円
発行者:塩(廃虚)
発行日:2011/5/5(COMITIA96新刊)
◆あらすじ
人間の捨てたすべてのものが行き着く街、墓所。
ラジオのようなハインリヒ、皮肉屋のマルベリー、自らの名前を捜す老人、そして人を捜している僕は、それぞれがなくしたものを捜して、この世界の墓場を彷徨っている。
ある日、瓦礫に埋もれた子どもが不思議な言葉を呟いた。
――そらとぶさかなをしっている?
それは、捨てられた空想のものがたり。
ついのべで断片を書き散らしていた墓所シリーズを再構築して短編にしました。1万字くらいのシュールな幻想ものです。
価格:100円
発行者:塩(廃虚)
発行日:2011/5/5(COMITIA96新刊)
◆あらすじ
人間の捨てたすべてのものが行き着く街、墓所。
ラジオのようなハインリヒ、皮肉屋のマルベリー、自らの名前を捜す老人、そして人を捜している僕は、それぞれがなくしたものを捜して、この世界の墓場を彷徨っている。
ある日、瓦礫に埋もれた子どもが不思議な言葉を呟いた。
――そらとぶさかなをしっている?
それは、捨てられた空想のものがたり。
ついのべで断片を書き散らしていた墓所シリーズを再構築して短編にしました。1万字くらいのシュールな幻想ものです。
本文サンプル
人類が進化の過程で切り落とした尻尾のように、捨てられた地があった。
辺り一面ゴミの広がる、ただ朽ち果てるのを待つばかりの場所で、人が捨てたものはすべてそこに行き着き、捜し物はみなそこに落ちている、と伝え聞く。
いったいどれほどの駅を渡り、港を経由しただろう。ここから先は徒歩だよ、と最後の馬車――いまどき馬車だ、この辺りには電気もガスもない――を下りてからずいぶん経った。
崩れ去りそうな廃墟の街へ入り、まだ着かないのだろうか、それともやはりあれはただの噂話で本当には存在しないのだろうかとと僕は途方に暮れていた。
そのくせ、この街の建物といったら奇抜で覚えのないものばかりで、とんでもなく高いと思えばその先端で三重にもねじれた鐘楼だとか、まったく意味を為さない五つの屋根を互い違いに差しかけるキノコじみた民家だったりする。色もまた、子どもの描いた太陽のような鮮やかな黄色、ヘドロじみた茶緑、一点の隙もない黒、血でもかけたみたいな赤と無節操に連なっていく。
色と形だけを見ればとんでもないインパクトだ。視界の暴力だと訴えたくなるほどだというのに、不思議とそれはすべてに薄いフィルム越しに見るように遠く感じた。なんといえばいいのだろう、まるで見た先から忘れていくような……。
「捜しものかい」
背中にかけられた声を、僕は空耳かと聞き流した。
「おおい、君だよ。それとも捨てられてきたのかい」
続く言葉にようやく僕は、それが人の声であると思いあたり、また話しかけられているのだと知って、キャッチボールを取り損ねた少年のようにあわてて振り向いた。
そこには奇妙な鉄の箱? が鎮座していた。
「えっ」
「ああ、これも旧世代の遺物というやつさ。まあ車のようなものだと思ってもらえれば差し支えない。私はこれをオドラテクと呼んでいるがね」
一瞬返す声を失った僕に、おだやかな声が紳士じみて説明した。
適当な部品を寄せ集めて作った子供のロボットじみたそれには、海星か蜘蛛のように八本の足があった。足の長さはそれぞれ違い、そのせいか箱自身も傾いて見える。箱には目があり、それが丸い窓となって中と外を繋いでいる。
中に人影が見え、僕は歓喜して声を上げた。最後の馬車を降りてから、人らしきものに出会うのは初めてだった。
「あの、すみません、墓所を目指してきたのですが」
「そうだと思ったよ。愚か者がまたひとり。それも一興」
声の主は窓から身を乗り出すと、すり切れた山高帽をひょいと上げて僕を歓迎した。まさしく声の通りの、年老いた白髪の紳士だった。
「ようこそ、墓所へ。ここはもう、世界の墓場さ」
人類が進化の過程で切り落とした尻尾のように、捨てられた地があった。
辺り一面ゴミの広がる、ただ朽ち果てるのを待つばかりの場所で、人が捨てたものはすべてそこに行き着き、捜し物はみなそこに落ちている、と伝え聞く。
いったいどれほどの駅を渡り、港を経由しただろう。ここから先は徒歩だよ、と最後の馬車――いまどき馬車だ、この辺りには電気もガスもない――を下りてからずいぶん経った。
崩れ去りそうな廃墟の街へ入り、まだ着かないのだろうか、それともやはりあれはただの噂話で本当には存在しないのだろうかとと僕は途方に暮れていた。
そのくせ、この街の建物といったら奇抜で覚えのないものばかりで、とんでもなく高いと思えばその先端で三重にもねじれた鐘楼だとか、まったく意味を為さない五つの屋根を互い違いに差しかけるキノコじみた民家だったりする。色もまた、子どもの描いた太陽のような鮮やかな黄色、ヘドロじみた茶緑、一点の隙もない黒、血でもかけたみたいな赤と無節操に連なっていく。
色と形だけを見ればとんでもないインパクトだ。視界の暴力だと訴えたくなるほどだというのに、不思議とそれはすべてに薄いフィルム越しに見るように遠く感じた。なんといえばいいのだろう、まるで見た先から忘れていくような……。
「捜しものかい」
背中にかけられた声を、僕は空耳かと聞き流した。
「おおい、君だよ。それとも捨てられてきたのかい」
続く言葉にようやく僕は、それが人の声であると思いあたり、また話しかけられているのだと知って、キャッチボールを取り損ねた少年のようにあわてて振り向いた。
そこには奇妙な鉄の箱? が鎮座していた。
「えっ」
「ああ、これも旧世代の遺物というやつさ。まあ車のようなものだと思ってもらえれば差し支えない。私はこれをオドラテクと呼んでいるがね」
一瞬返す声を失った僕に、おだやかな声が紳士じみて説明した。
適当な部品を寄せ集めて作った子供のロボットじみたそれには、海星か蜘蛛のように八本の足があった。足の長さはそれぞれ違い、そのせいか箱自身も傾いて見える。箱には目があり、それが丸い窓となって中と外を繋いでいる。
中に人影が見え、僕は歓喜して声を上げた。最後の馬車を降りてから、人らしきものに出会うのは初めてだった。
「あの、すみません、墓所を目指してきたのですが」
「そうだと思ったよ。愚か者がまたひとり。それも一興」
声の主は窓から身を乗り出すと、すり切れた山高帽をひょいと上げて僕を歓迎した。まさしく声の通りの、年老いた白髪の紳士だった。
「ようこそ、墓所へ。ここはもう、世界の墓場さ」
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