創作小説サークル「森の箱庭屋」の情報を掲載
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仕様:B6版94ページ
価格:400円
発行者:土岐(Crooked 100 Miles)
発行日:2008/8/24(COMITIA85新刊)
◆あらすじ
「おいで」──差し伸べられた手から始まる、人間とオルファンの物語。
人の姿と獣の姿を行き来する種族、オルファンの少年カリ。
オルファンに両親を殺された人間の少女タイナ。
その養父で、実は人間ではないアンタルス。
三人の穏やかな生活は、人間とオルファンの争いによって引き裂かれる。オルファンを虐げる人間たち、人間を脅かすオルファンたち。過酷な現実が、優しい記憶を遠く隔ててゆく。彼らは再び出会うことができるのか──。
読み切り長編ファンタジー。
価格:400円
発行者:土岐(Crooked 100 Miles)
発行日:2008/8/24(COMITIA85新刊)
◆あらすじ
「おいで」──差し伸べられた手から始まる、人間とオルファンの物語。
人の姿と獣の姿を行き来する種族、オルファンの少年カリ。
オルファンに両親を殺された人間の少女タイナ。
その養父で、実は人間ではないアンタルス。
三人の穏やかな生活は、人間とオルファンの争いによって引き裂かれる。オルファンを虐げる人間たち、人間を脅かすオルファンたち。過酷な現実が、優しい記憶を遠く隔ててゆく。彼らは再び出会うことができるのか──。
読み切り長編ファンタジー。
本文サンプル
「まってください」
細い声が言った。
羽毛のような雪が、少女の黒髪を滑っていく。震えるほど怯えながら、少女は黒い瞳の底にはっきりと何かを灯している。幼い獣は、霞む視界の中で、少女の姿だけを見つめていた。地上そのもののように鮮やかで、美しいと思った。
男が穏やかに少女に言った。
「人間の子。勇敢な子だ。まさかひとりでここまで歩いてくるとは思わなかった。だが、オルフは私の村を襲い、お前の両親を殺したのだよ」
「でも、そのオルフではありません」
男は愉快そうに薄い唇を歪めると、獣の喉から手を離した。動けずに横たわったまま、獣は視線だけで少女を見上げた。
「オルフ。お前はなぜここに居たの」
視線を動かして天を見上げる。雪は降り続けている。だがもう、上ることも下りることも出来そうにないようだった。上にも下にも階段がない。幼い獣は、不意に気付いた。もうどこにも行く場所がない。
「オルフ」
少女が軽く膝を曲げて、片手を差し出した。
手のひらを向けて、何かを待っている。
幼い獣は少女を凝視した。
「おいで」
私のところへおいで。
ここにいても良いのだと、少女の黒い瞳が語った。広く異質な地上で、ほんの小さな手のひらだけが子供のために差し出されていた。
強張った首を動かして舌先で指を舐めた。恐怖の匂いもした。怒りもあった。悲しみも不安も、安堵も喜びも好奇心も、あらゆるものが混じり合った熱い混沌の匂いがした。これが地上なのだと思った。雪の降ってくる冷たい空でもなく、蒼白い水の流れる暗い地底でもない。
少女が獣の頭を撫でると、黒衣の男は幽かに笑ったようだった。
「面白いな。まだお前の名前を聞いていなかったが、娘よ」
「タイナです……御父様」
少女に視線で問われたような気がして、幼い獣は薄れてゆく地底の記憶からひとつの名前を拾い上げた。
──僕は、カリ。
(本文p.5~6より)
「まってください」
細い声が言った。
羽毛のような雪が、少女の黒髪を滑っていく。震えるほど怯えながら、少女は黒い瞳の底にはっきりと何かを灯している。幼い獣は、霞む視界の中で、少女の姿だけを見つめていた。地上そのもののように鮮やかで、美しいと思った。
男が穏やかに少女に言った。
「人間の子。勇敢な子だ。まさかひとりでここまで歩いてくるとは思わなかった。だが、オルフは私の村を襲い、お前の両親を殺したのだよ」
「でも、そのオルフではありません」
男は愉快そうに薄い唇を歪めると、獣の喉から手を離した。動けずに横たわったまま、獣は視線だけで少女を見上げた。
「オルフ。お前はなぜここに居たの」
視線を動かして天を見上げる。雪は降り続けている。だがもう、上ることも下りることも出来そうにないようだった。上にも下にも階段がない。幼い獣は、不意に気付いた。もうどこにも行く場所がない。
「オルフ」
少女が軽く膝を曲げて、片手を差し出した。
手のひらを向けて、何かを待っている。
幼い獣は少女を凝視した。
「おいで」
私のところへおいで。
ここにいても良いのだと、少女の黒い瞳が語った。広く異質な地上で、ほんの小さな手のひらだけが子供のために差し出されていた。
強張った首を動かして舌先で指を舐めた。恐怖の匂いもした。怒りもあった。悲しみも不安も、安堵も喜びも好奇心も、あらゆるものが混じり合った熱い混沌の匂いがした。これが地上なのだと思った。雪の降ってくる冷たい空でもなく、蒼白い水の流れる暗い地底でもない。
少女が獣の頭を撫でると、黒衣の男は幽かに笑ったようだった。
「面白いな。まだお前の名前を聞いていなかったが、娘よ」
「タイナです……御父様」
少女に視線で問われたような気がして、幼い獣は薄れてゆく地底の記憶からひとつの名前を拾い上げた。
──僕は、カリ。
(本文p.5~6より)
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