創作小説サークル「森の箱庭屋」の情報を掲載
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仕様:B6版48ページ
価格:300円
発行者:土岐(Crooked 100 Miles)
発行日:2010/5/4(COMITIA92新刊)
◆あらすじ
緑に覆われた高層都市で、首相令嬢ジリンは退屈していた。大人たちはジリンを遠ざけて飾り物にしておきたがり、友だちは暇つぶしにつまらないお喋りを繰り返す。見ると死んでしまう白い木の都市伝説──何もかもが非現実的にしか感じられない。そんなジリンに、侍者のアルプレイルは一枚の写真を見せる。それは世界の価値を根本から変えてしまうものだった。
近未来風SFファンタジー。ゲストに廃虚の塩さんと、森羅万象の鈴埜さんをお迎えし、本編+スピンオフ2本でお送りします。
『ASLSP』土岐百哩
『Vexations 青い鳥と白い樹木について』塩
『4'33"』鈴埜
価格:300円
発行者:土岐(Crooked 100 Miles)
発行日:2010/5/4(COMITIA92新刊)
◆あらすじ
緑に覆われた高層都市で、首相令嬢ジリンは退屈していた。大人たちはジリンを遠ざけて飾り物にしておきたがり、友だちは暇つぶしにつまらないお喋りを繰り返す。見ると死んでしまう白い木の都市伝説──何もかもが非現実的にしか感じられない。そんなジリンに、侍者のアルプレイルは一枚の写真を見せる。それは世界の価値を根本から変えてしまうものだった。
近未来風SFファンタジー。ゲストに廃虚の塩さんと、森羅万象の鈴埜さんをお迎えし、本編+スピンオフ2本でお送りします。
『ASLSP』土岐百哩
『Vexations 青い鳥と白い樹木について』塩
『4'33"』鈴埜
本文サンプル
軽やかな音を立てて日傘を開くと、耳元をくすぐるような幽かな歌が広がった。丁寧で明快で曖昧さを含まないその歌は、日傘の品質を保証するものだった。いい加減な物はいい加減な歌しか歌わない。
「あら、もう帰ってしまうの、ジリン?」
呼び止められてジリンは振り返った。
屋敷の影に守られた露台から陽の当たる前庭へは階段で下りられるようになっている。光と影の境界にあるその階段で、ふわりと、ジリンの薄い白いドレスの裾がひるがえった。静かに唇の前に人差し指を立てて、ジリンは微笑んだ。
「ええ、今日はもう、私の役目は終わったもの。あとはお父さまたちのお話の時間よ」
露台に続く広間には、大勢の人々が華やかにさざめく気配が揺れていた。ジリンを呼び止めた少女は、その気配を片手で払いのけるような仕草をして頬を膨らませた。
「大人は大人でお話しているんですもの、私たちは私たちでお話しましょうよ、ジリン。あなたが帰ってしまったら、皆がっかりするわ。それに、きっとあなたにとっても興味深い話が聞けると思うのよ」
「興味深い?」
ジリンは小首を傾げた。
「そうよ、見たら死んでしまう白い木の話を知っている? 『歌値』の無いものに触って指が溶けてしまった子のことは聞いた? ジリン、あなたはずっと、あの百三十階建ての館に籠もっていて、街のことを知らないのじゃなくて? 私たち、あなたの知らない話をたくさん知っているわ」
「そう……そうね。そうかも知れないわ。でもその噂話はまた今度ね。ほら、もう私の侍者がそこまで迎えに来てしまったから」
少女には肩越しの一瞥と微笑を投げて、ジリンは決して急がない足取りで前庭へ下りていく。
「退屈だわ、アルプレイル」
ジリンは日傘をかたむけた。途端に真夏の陽射しが目に飛びこんで、眩しさに目を細める。
ジリンの瞳は、空の上澄みを落としたような水色で、だから光に弱いのだとアルプレイルは言う。
「どうか影においでください、ジリン様」
アルプレイルは、うやうやしい手つきでジリンの日傘をまっすぐに戻すと、そのまま一歩動いて太陽の正面に立った。ジリンは、導かれるように日傘ごとくるりと回って、眩しくない方を向く。代わりに、アルプレイルが正面から陽光を浴びることになって目を細めたが、侍者であればその程度の犠牲は当然だ。
アルプレイルは、これまでのジリンの侍者の中では一番若い。だが一番物静かで気が利いた。ジリンとしては何の不満もなかった──ひとつ以外は。
(本文p.6~8より)
軽やかな音を立てて日傘を開くと、耳元をくすぐるような幽かな歌が広がった。丁寧で明快で曖昧さを含まないその歌は、日傘の品質を保証するものだった。いい加減な物はいい加減な歌しか歌わない。
「あら、もう帰ってしまうの、ジリン?」
呼び止められてジリンは振り返った。
屋敷の影に守られた露台から陽の当たる前庭へは階段で下りられるようになっている。光と影の境界にあるその階段で、ふわりと、ジリンの薄い白いドレスの裾がひるがえった。静かに唇の前に人差し指を立てて、ジリンは微笑んだ。
「ええ、今日はもう、私の役目は終わったもの。あとはお父さまたちのお話の時間よ」
露台に続く広間には、大勢の人々が華やかにさざめく気配が揺れていた。ジリンを呼び止めた少女は、その気配を片手で払いのけるような仕草をして頬を膨らませた。
「大人は大人でお話しているんですもの、私たちは私たちでお話しましょうよ、ジリン。あなたが帰ってしまったら、皆がっかりするわ。それに、きっとあなたにとっても興味深い話が聞けると思うのよ」
「興味深い?」
ジリンは小首を傾げた。
「そうよ、見たら死んでしまう白い木の話を知っている? 『歌値』の無いものに触って指が溶けてしまった子のことは聞いた? ジリン、あなたはずっと、あの百三十階建ての館に籠もっていて、街のことを知らないのじゃなくて? 私たち、あなたの知らない話をたくさん知っているわ」
「そう……そうね。そうかも知れないわ。でもその噂話はまた今度ね。ほら、もう私の侍者がそこまで迎えに来てしまったから」
少女には肩越しの一瞥と微笑を投げて、ジリンは決して急がない足取りで前庭へ下りていく。
「退屈だわ、アルプレイル」
ジリンは日傘をかたむけた。途端に真夏の陽射しが目に飛びこんで、眩しさに目を細める。
ジリンの瞳は、空の上澄みを落としたような水色で、だから光に弱いのだとアルプレイルは言う。
「どうか影においでください、ジリン様」
アルプレイルは、うやうやしい手つきでジリンの日傘をまっすぐに戻すと、そのまま一歩動いて太陽の正面に立った。ジリンは、導かれるように日傘ごとくるりと回って、眩しくない方を向く。代わりに、アルプレイルが正面から陽光を浴びることになって目を細めたが、侍者であればその程度の犠牲は当然だ。
アルプレイルは、これまでのジリンの侍者の中では一番若い。だが一番物静かで気が利いた。ジリンとしては何の不満もなかった──ひとつ以外は。
(本文p.6~8より)
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